こんにちは、3Cサポートの平山です。
事業承継(親族や従業員への承継)やM&Aを考えたときに、どうしても社長の視点が強くなります。
- どのように事業承継するか
- どう会社を譲渡するか
- 借入金はどうなるのか
- 個人保証はどうなのか など
事業承継やM&Aを支援する側もその視点から見てしまいがちになります。
事業承継やM&Aをするということは、それに関わる人に大きな影響を及ぼすということにもなります。
今回は、関わる人の「ウェルビーイング(幸せ)」を考えてみます。
目次
- 事業承継・M&Aとウェルビーイング
- 事業承継・M&Aと「社長」のウェルビーイング
- 事業承継・M&Aと「後継者」のウェルビーイング
- 事業承継・M&Aと「従業員」のウェルビーイング
- 事業承継・M&Aと「取引先」のウェルビーイング
- まとめ
事業承継・M&Aとウェルビーイング
ウェルビーイングとは?
ここ数年で「ウェルビーイング」という言葉をよく聞くようになりました。
「ウェルビーイング(well-being)」とは、心と身体と社会のよい状態のことを指します。「幸福」と訳されることが多いようです。
世界保健機関(WHO)憲章の中ではこのように謳われています。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(公益財団法人日本WHO協会)
事業承継とウェルビーイング
事業承継(親族内承継/従業員承継)を考える際、関わる人のウェルビーイングも考えていけるといいのではないかと思います。
社長、後継者、従業員、取引先などです。
- 社長にとって幸せな状態は何か
- 後継者にとって幸せな状態は何か
- 従業員にとって幸せな状態は何か
- 取引先にとって幸せな状態は何か
事業承継により関わる人たちがどのように幸せになれるのかを考えていきたいです。
M&Aとウェルビーイング
M&Aを考える際にも、関わる人のウェルビーイングを考えていきます。
社長、買い手事業者、自社の従業員、買い手事業者の従業員、取引先などです。
- 社長にとって幸せな状態は何か
- 買い手事業者にとって幸せな状態は何か
- 自社の従業員にとって幸せな状態は何か
- 買い手事業者の従業員にとって幸せな状態な何か
- 取引先にとって幸せな状態は何か
M&Aでは会社や事業の売り買いに意識が行きがちになるため、より一層、関わる人をどのように幸せにできるかという視点も取り入れたいところです。
事業承継・M&Aと「社長」のウェルビーイング
社長のウェルビーイング
ここで考えてみてください。
社長にとって自身の「ウェルビーイング」とはどういう状態でしょうか?
事業承継・M&Aにより、
- 心の面がどうなると幸せですか?
- 身体的にどうなると幸せですか?
- 社会的にどうなると幸せですか?
答えは人それぞれです。
まずは、どのように感じるか考える時間を取ることをおすすめします。
社長の人生プラン
現在の事業の引き継ぎが完了したあと、社長はどのような人生を歩んでいきたいかも考えましょう。
多くの時間や労力をこの事業に傾けてきたと思います。充実した日々もあれば、犠牲にしてきたこともあったでしょう。
事業を引き継いだあとはどのような人生プランを立てますか?
会長職などで会社と関わりを持つのも良し、完全に引退して違うことに時間を割くのも良し。心と身体と社会的に幸せな良い状態を作っていきたいですね。
事業承継・M&Aと「後継者」のウェルビーイング
ここでは事業承継する親族または従業員の後継者について考えます。
後継者のウェルビーイング
事業承継を行う上で社長が考えたいことのひとつは、
後継者がこの事業を引き継ぐことが幸せかどうか
です。
自分の幸せは後継者自身で考えていくものではあります。ただ、後継者がより幸せになる状態を社長としてどうバックアップできるかということも大事だと思います。
後継者の人生プラン
社長と同様に、後継者にも人生プランがあります。後継者の年齢や家族構成によっても違ってきます。
事業を引き継いで経営者になるということは、今後の人生をこの事業と共に歩いていくということです。
社長としてこの事業を後継者に託せますか?
後継者の腹落ち
最終的には、後継者が心の底から納得してバトンを受け取る形が望ましいです。
そのために社長が取り組まないといけないことも多くあります。既存事業の魅力を上げること、後継者へマイナス面も含めた情報共有、双方が納得できるまで対話するなど。
▼参考
社員の後継者候補が事業承継をためらってしまうワケ|従業員承継で社長が押さえておきたい後継者視点
事業承継・M&Aと「従業員」のウェルビーイング
従業員のウェルビーイング
従業員が幸せと思える環境を作っていくことも社長の大切な仕事です。
自分が幸せだと感じている従業員ほど、創造性や生産性が高く、欠勤率や離職率も低いという研究結果もあります。(参考:「ウェルビーイング」前野隆司・前野マドカ著/日経文庫)
環境の変化
従業員にとっては、事業承継やM&Aは大きな環境の変化であり不安を感じる要因になります。
社長が変わることで運営の方針も変わります。配置転換、業務の変更、労働条件の変更、労働環境の変化など、現在の環境で慣れている従業員にとっては大きな関心ごとです。
M&Aではその不安もさらに大きくなります。全く違う企業文化と融合していくわけで、ストレスレベルも高くなることが予想されます。
中小企業庁から出ている「中小PMIガイドライン」というM&Aを成功に導くガイドラインの中でも、従業員の「不安や不信感を払拭」することの大切さが謳われています。
心理的ケア
事業承継やM&Aでは、従業員の心理的なケアが必要です。そのためにも、従業員との継続的なコミュニケーションに力を入れていきたいです。
説明会や個別面談の機会を持ち、この事業承継・M&Aで何がどのように変化するかを丁寧に説明します。そして、不安な点があれば解消できるようにコミュニケーションを図っていくといいと思います。
人員整理が必要なことも
特に「再生型」の事業承継やM&Aでは、従業員に会社から離れてもらうことが必要になることがあります。
社長としては、これは本当に苦しいことです。日々の経営で従業員のことを考えない日はなかったと思います。その従業員に違う道を歩むよう促すこともときには必要になります。
このときでも従業員にとってのウェルビーイングという視点を持って対応したいです。
私の知人に、人事畑30年で、何度となく従業員へ会社を離れてもらうよう伝える役割を担ってきた人がいます。この方が言っていました。
「その人が解雇をされることは不幸に見えるかもしれないが、会社の方向性と合わない中で残り続ける方がその人は不幸になる。違う道に行く方が結果としてその人は幸せになると信じている」
真摯に従業員に向き合えるかがポイントになるようです。
事業承継・M&Aと「取引先」のウェルビーイング
取引先のウェルビーイング
取引先の幸せのことにも思いを馳せていきたいです。
例えば、長い付き合いで関係性が良好な取引先の場合、当社の事業承継やM&Aによる経営方針の変更により大きな影響を受けることがあります。
取引条件の変更や、暗黙の了解で進めてきたことができなくなるなど、不都合も出てきます。特にM&Aではその傾向も強くなります。
取引先が当社へ依存している場合、当社の方針転換が取引先の経営破綻にまでつながる恐れもあります。
コミュニケーション
従業員同様、ここでもコミュニケーションを密にしていくことが重要になります。
事業承継・M&Aでどのような方針変更が出てくるのか。そして、それによって取引先がどのような影響を受けるのか。そういったことを双方の継続的な対話で理解を得ていきたいです。
まとめ
事業承継やM&Aを進める上での「ウェルビーイング」という視点を考えてきました。
社長、後継者、従業員、取引先の幸せな状態をどう実現していくか。この他にも、金融機関、顧問税理士等の支援者のことも考えていけるといいですよね。
事業の継続が一番大事なことですが、その継続を支えているのは人です。できるだけ関わる人が幸せである状態を目指すことも、社長の役割のひとつだと思います。
ぜひ関わる人の「ウェルビーイング」という視点も取り入れてみてください。