こんにちは、3Cサポートの平山です。
近年、事業承継の手段でM&Aを選択する中小企業が増えています。
M&Aを仲介する専門業者に依頼すると手数料が高額になるというイメージもあり、ハードルが高いと感じる中小企業も多いようです。
そういった中でM&Aプラットフォームを利用する中小企業も増えてきています。
▼参考
後継者のいない中小企業はM&Aプラットフォームを活用することも選択肢のひとつ
M&Aでは、譲渡後の「統合作業」が大事になります。
2回にわたり、M&Aにおける買い手側の統合作業に関して、中小企業庁の『中小PMIガイドライン』をもとにポイントをまとめていきます。
今回は、M&A成立までに意識することです。
目次
- 中小企業のM&A:統合作業の大切さ
- 中小企業のM&A:統合作業に関するガイドライン
- 中小企業のM&A成立まで:① 経営統合
- 中小企業のM&A成立まで:② 売り手側の経営者
- 中小企業のM&A成立まで:③ 売り手側の従業員
- 中小企業のM&A成立まで:④ 売り手側の取引先および外部関係者
- 中小企業のM&A成立まで:⑤ 業務統合
- まとめ
中小企業のM&A:統合作業の大切さ
M&Aプラットフォームなどを利用することで、中小企業のM&Aがしやすくなってきています。
売り手側は事業を希望する条件で売却することを望みます。買い手側は既存事業との相乗効果を期待し良い条件で成立させたいと考えます。
M&A件数は増加傾向にありますが、M&A成立後に買い手側が満足できなかったケースも見受けられます。
M&A実施後の満足度調査では、期待を下回ったと答えた割合が全体の約1/4でした(中小企業白書2018年度版)。
この満足度が期待を下回った企業では、理由として「相乗効果が出なかった」、「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」、「相手先の従業員に不満があった」などが挙げられています。
M&A前のデュー・ディリジェンスは大切ですが、それだけでは掴めないものも出てきます。
M&A後にしっかり相乗効果を出せるように、最近ではM&A成立後にどう「統合作業」を行っていくかに注目が集まっています。
中小企業のM&A:統合作業に関するガイドライン
中小企業がM&Aの統合作業にどのように取り組んでいけばいいかをまとめた『中小PMIガイドライン』が、2022年3月に中小企業庁から出されました。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の一定期間内に行う経営統合作業のことです。
『中小PMIガイドライン』では、大きな会社間のM&Aのみならず、小さな会社間でもPMIに取り組めるようにまとめてあります。
この『中小PMIガイドライン』(以下「ガイドライン」)をもとに、M&A成立までの「統合作業」で意識しておきたい基礎的な部分を以下にまとめていきます。
中小企業のM&A成立まで:① 経営統合
M&Aを実行する理由や経営の方向性を言語化し、社内外の関係者に説明できるようにします。
新しい経営の方向性
M&A後の新しい経営の方向性を検討し明確にしていきます。主に、M&Aをした理由、事業の目的、目標、行動基準等を中心に言語化します。
今までの方向性との差異
売り手側の経営者からのヒアリングを通じて、今までの経営の方向性を確認します。そして、新しい方向性との差異を明確にしておきます。この差異を社内の従業員や社外の関係者に説明していくことが、M&A成立後の課題になってきます。
ガイドラインでは、商号の変更などの外形的な変化も含まれるとしています。
中小企業のM&A成立まで:② 売り手側の経営者
売り手側の経営者が、M&A成立後にどのように関わっていくのか、引き継ぎでの役割をどうするのか等を明確にしていきます。
相互理解
トップ面談前に、売り手企業に関することや、売り手側の経営者に関することなど、できる範囲で情報収集をしておきます。
その上で、面談時には売り手側の経営者の話に真摯に耳を傾け、理解を深め、信頼関係を構築していくことが大事になります。
ガイドラインでは、「敬意を持って接する」ことをポイントとして挙げています。
M&A成立後の処遇
M&A成立後に売り手側の経営者がどう関わっていくのか、どういった条件にするのかを明確にしていきます。
後々の争いを防ぐためにも、覚書等の書面を交わすことは有効です。
中小企業のM&A成立まで:③ 売り手側の従業員
M&Aは会社の環境が大きく変わる可能性があります。当然、働く従業員は大きな不安を感じます。従業員が安心して働き続けられるよう、積極的なコミュニケーションが大事になります。
キーパーソン
従業員の中で影響力の大きいキーパーソンを特定し、その人へM&Aに至った経緯や今後の方向性といった情報を共有していきます。その上で、円滑な譲渡になるよう協力を要請します。
ガイドラインでは、キーパーソンに以下の情報を説明することを例として挙げています:
- M&Aの経緯や目的
- 経営の方向性
- 事前に情報を共有した理由
- 情報を共有している範囲
- キーパーソンの不安や疑問への回答
中小企業のM&A成立まで:④ 売り手側の取引先および外部関係者
取引先との継続的な関係性を維持・発展していくために、M&Aに関しての説明時期や、方法などを検討していきます。
重要な取引先
売り手側経営者へのヒアリングや会計データ等の資料から、事業継続に重要な取引先を把握します。取引先との関係性や取引経緯などもM&A成立後には重要な情報となります。
ここが不十分で譲渡後に取引先との関係性が悪化した例も見受けられます。
外部関係者
取引先以外にも外部関係者を把握しておきます。例えば、金融機関、業界団体、協力業者等です。
中小企業のM&A成立まで:⑤ 業務統合
事業の円滑な引き継ぎと、改善点を明確にしていきます。
事業の現状把握
デュー・ディリジェンス等により事業の現状把握を行います。
ガイドラインには、留意点として3点挙げています:
- デュー・ディリジェンスでは検知できないことがある
- 属人化している業務がある
- 規定等が存在しない、実態との乖離がある
留意点を踏まえつつ事業の現状把握をしていくことで、今後の改善点も明確になっていきます。
まとめ
M&Aの「統合作業」という視点から、買い手側がM&A成立までにどういった点を意識すればいいかポイントを整理しました。
M&Aでは事業の売買ということに強く意識が向く傾向があり、譲渡後に必要となる統合作業に関しての検討が不十分になることがあります。
『中小PMIガイドライン』でも指摘されていますが、M&Aの成立はゴールではなくスタートラインです。円滑な引き継ぎと、譲渡後の効果を最大限出していくためにも、M&A成立前からの準備が欠かせません。
次回は、この「統合作業」という視点から、M&A成立後にどういうことを意識すればいいかを見ていきます。