こんにちは、3Cサポートの平山です。
事業承継というと自分の子供へ承継するというイメージが強いのですが、近年では親族外へ承継するケースも増えてきています。それでも一番多い承継パターンは親族内承継です。
親族に承継するのか、従業員に承継するのか、第三者に承継するのか。
前回の記事では、「従業員への事業承継」のメリットとデメリットをまとめました。
今回は、「親族内承継」のメリットとデメリットについて考えていきます。
目次
親族内承継
親族内承継とは
親族内承継とは、家族や親族の中から後継者を選び、経営の権限を引き継ぐことをいいます。
事業承継としては一般的な承継パターンです。社長としては、大事な事業を子どもや家族へ引き継いでもらいたいと思うことは自然なことです。
中小企業が親族へ承継する割合
中小企業の事業承継で、親族へ承継を行う事業者はどのくらいの割合でしょうか。
帝国データバンクの調査(全国企業「後継者不在率」動向調査(2022))では、親族への承継は全体の34%となっており、近年は減少傾向にあります。とはいえ、親族内承継は多くの中小企業事業者が選択する承継方法であることがわかります。

親族内承継が減少している理由
親族内承継が減少している大きな理由としては、後継者不足が指摘されています。
少子化という流れに加え、就職する若者の中には、家族経営に興味を持たない人も増えています。
先ほどの帝国データバンクの調査によると、「後継者不在」と回答した企業の割合は約6割に上ります。また、中小企業庁の発表によると、廃業理由の3割が「後継者難」となっています。

親族内承継のメリット
1. 経営理念や文化を承継しやすい
親族内承継では、社長の大切にしている価値観や、経営理念、企業文化などが引き継がれやすくなります。
家族という近い存在であるため、後継者としても価値観や考え方を受け入れやすくなります。
親族内承継では、後継者候補を一定期間社員として働かせるということが一般的です。社員として働きながら自然と企業文化を受け入れていくという側面もあります。
2. 継続性が確保しやすい
親族へ承継することで、事業の継続性が確保しやすくなります。
外部人材へ経営を委ねると、企業風土の変化や経営方針の変更などが生じる可能性があります。その人の持つ価値観や、これまで所属していた組織の経営理念や文化が異なるためです。
親族内承継であれば、家族内での継続的な話し合いにより、経営方針を引き継ぎつつ、適切な改善や発展を進めることが期待できます。
3. 周囲の理解が得られやすい
後継者が親族であることで、顧客、取引先、金融機関といった周囲の人たちからの理解が得られやすくなります。
社長が高齢になるにつれ、周囲の人たちは事業の継続に対して不安を感じ始めます。M&Aなど第三者継承になると、方針等に大きな変更が生じる可能性があります。その点、親族が後継者であれば、今の流れをそのまま引き継いでいくことが想定されるため周囲の安心感にもつながっていきます。
4. 負担軽減
事業承継に伴う負担軽減もメリットのひとつです。
例えば第三者承継では、買い手探しと交渉に費用と時間を要します。買い手側が会社の現状を理解するために、財務データや事業の細部を把握する必要があります。そのための準備は大きな負担となります。
親族内承継では後継者が家族であるため、会社の現状や事業についての理解が深くスムーズな承継が期待できます。
親族内承継のデメリット
親族内承継のデメリットもあります。
1. 後継者の能力不足
親族内承継では、後継者の経営者としての能力や適性が問題になることがあります。
後継者が必ずしも経営能力を持っているとは限らず、業績悪化や倒産などのリスクが高まる可能性も考えられます。
社長としては、後継者へ引き継いだあとも適度な距離でサポートしていくことも求められます。
2. 家族内のトラブル
親族内承継では、家族や親族同士のトラブルが発生することがあります。
後継者の選定や経営方針の決定において、家族内での意見対立が生じるケースも多いです。このようなごたごたは、企業経営や社員へのモチベーションに悪影響を与えかねません。
3. 事業の発展性の制限
親族内承継では、後継者が家族や親族という限られた人材の中から選ばれることになります。比較的価値観も似ており、企業の発展性に限界が生じる可能性があります。
違った考え方や見方をする人材を活用することも考えていきたいです。
4. 覚悟やプロ意識の欠如
親族内から選ばれた後継者は、社長として会社を引っ張っていくという覚悟やプロ意識が欠如している可能性があります。
後継者へバトンタッチする前に、社内で経営者として育てていくということも大事になります。
多くの中小企業の社長の悩みのタネは、資金繰りです。毎月の支払いで胃が痛いという社長も多いです。それでも弱音は吐かず、自分を奮い立たせ、社員とその家族、会社、お客様を守っていかなければいけません。
そういった覚悟をどう持たせられるかも課題になります。
親族内承継に必要な準備
親族内承継のメリットとデメリットを見てきました。
ここからは、親族へ引き継ぐ際に、どのような準備をしていけばいいか、いくつかポイントを挙げていきます。
後継者の選定
家族や親族の中から、後継者として適任者を選定する必要があります。
後継者には、経営に必要なスキルや経験、人間性など、様々な要素が求められます。そのため、家族や親族であっても、後継者としてふさわしい人物かどうかが大事になります。
また、適任者が見つかったとしても、本人がこの事業を引き継ぎたいと思わないことも考えられます。事業が赤字であったり、売上が下降気味であったりすると、引き継ぎのハードルも高くなります。
▼参考
事業承継・M&Aを考え始めたら、まずは取り組みたい事業の「磨き上げ」
事業承継計画の策定
事業承継計画を作成しましょう。
事業承継計画には、事業価値の評価、バトンタッチの時期、後継者の育成方針、経営方針の明確化、株式移転など、様々な要素が含まれます。このような計画を策定することで、事業の継続性やスムーズな承継ができるようになります。
この計画づくりには、後継者候補との対話が欠かせません。社長と後継者候補が一緒に作成していくことがおすすめです。
▼参考
事業承継の計画を作る上で考えておきたいこと|事業承継の計画作成3つのステップ
社内のコミュニケーション
事業承継に向けて、社内のコミュニケーションを密にしていくことも重要です。
後継者や社員に対して、事業の継続性や経営方針の明確化、承継に伴う変化などを丁寧に伝えていくことが大切です。
また、社員の意見やアイデアも積極的に取り入れることで、モチベーション向上や、事業承継後の協力を得られることも期待できます。
法的な手続き
事業の所有権や株式の移転等に関する法的手続きが必要になります。
どういった手続きが必要になるか、まずは顧問税理士に相談するところから始めるといいと思います。
まとめ
親族内承継のメリットとデメリット、承継までに準備をしたいことなどを見てきました。
後継者が親族の場合、今まで社長が大事にしてきた価値観や想いを引き継ぎやすくなります。また、後継者が困った際にもサポートしやすいというのも良い点だと思います。
親子間では本音が言いづらいということも多々あるようですが、コミュニケーションは欠かさず後継者をしっかり見守っていきたいですね。
事業規模や会社個々の事情によっても、上に挙げたメリットやデメリットの重みが変わります。会社の実情に合わせて検討していくことをおすすめします。