従業員へ事業を承継するメリットとデメリット|事業承継|中小企業の社長向け

こんにちは、3Cサポートの平山です。

事業承継を検討し始めたとき、いくつかの選択肢があります。親族に承継するのか、従業員に承継するのか、第三者に承継するのか。

どの承継パターンにするにせよ、押さえておきたいことはあります。

▼参考
中小企業の一大イベント「事業承継」の方向性をどう決める?|押さえておきたいこと

今回は、その中でも「従業員への事業承継」に関してメリットとデメリットを中心に見ていきます。

目次

従業員への承継

従業員承継とは

従業員承継とは、事業を従業員へ引き継ぐことをいいます。従業員が経営者になることで、企業の存続や雇用の維持を目指すことができます。

中小企業が従業員へ承継する割合

中小企業の事業承継で、従業員への承継を行う事業者はどのくらいの割合でしょうか。

帝国データバンクの調査(全国企業「後継者不在率」動向調査(2022))では、従業員への承継は全体の33.9%となっており、親族内承継とほとんど変わらない水準になっています。

従業員承継は、多くの中小企業事業者に選択されている承継方法であることがわかります。

従業員承継のメリット

従業員承継を選択するメリットをいくつか挙げていきます。

1. 会社の存続を確保できる

会社の存続を確保できることは大きなメリットです。

親族内承継でも存続の確保はできますが、引き継ぐ親族がいなければ従業員承継は有力な選択肢になるでしょう。

また、従業員は事業に関して精通していますので、経営判断もしやすくなるだけでなく、お客様や取引先との関係維持にもプラスになります。

2. 従業員のモチベーション向上

従業員が引き継ぐことで、自分たちが働いている会社をより良くしたいという気持ちが生まれます。

また、後継者に指名された従業員は、モチベーションも上がり、責任感向上につながります。

従業員が承継していくという企業文化になると、従業員が経営者を目指すためにスキルアップを行う動機づけにもなります。

3. 従業員の雇用維持

従業員承継によって会社の存続が確保されるため、従業員の雇用維持につながります。

M&Aという選択をした場合、雇用が維持されるかは買収企業の判断に委ねられることになります。たとえ雇用維持を条件としてM&Aが成立したとしても、従業員が安心して働き続けられる環境が維持されるとは限りません。

また、福利厚生の向上なども期待できます。後継者は、従業員として感じてきた職場環境に対する不満もあるはずです。それらを経営者として改善していくことも考えられます。

4. 周囲の安心感が得られる

従業員が事業を引き継げば、従業員、お客様、取引先など周囲の人の安心感が得られやすくなります。

従業員として働いている人々は、M&Aとなると不安や不満が生じます。人は環境が変わることを嫌います。M&Aでは自分たちの職場環境がどう変化していくかわからないため、大きな不安を感じます。

その点、顔の見える従業員が引き継ぐことで、従業員の気持ちも落ち着きます。

お客様や取引先も同様です。

従業員承継のデメリット

従業員承継のデメリットもあります。いくつか挙げてみます。

1. 資金調達の難しさ

資金面が大きな課題になることがあります。

従業員承継は、会社の株式を従業員に譲渡することで行われます。しかし、従業員が株式を購入するための資金は、大抵の場合自己資金によるものとなります。

十分な自己資金がない場合、金融機関からの借入なども検討する必要があります。

2. 社長の意図と異なる方向への経営

後継者は社長が退くことで経営を引き継ぎますが、経営の方向性に関して社長とは別の意見を持つことがあります。

そのため、経営方針や企業文化が変化する可能性があり、社長が意図しなかった方向へと進んでしまうことも考えられます。

3. 後継者の資質によるリスク

事業承継では、後継者の資質が問われます。

十分なビジネス知識やマネジメントスキルを持たない従業員が経営に参加すると、会社の持続的な発展に支障をきたす可能性があります。

知識と実践は別物ですので、いくら優秀な従業員だったとしても思ったように会社が発展していかないことは考えられます。

4. 従業員同士の紛争の可能性

従業員承継では、従業員同士の意見の対立が生じる可能性があります。その結果、紛争が発生することがあります。

従業員たちが後継者に対して不満を持っている場合、思うような協力を得られないということも考えられます。

従業員承継に必要な準備

従業員承継のメリットとデメリットを見ていきました。

ここからは、従業員へ引き継ぐと選択した際に、どのような準備をしていけばいいか、いくつかポイントを挙げていきます。

目標と計画の策定

従業員承継に限ったことではありませんが、事業承継を行う目的や目標を明確にして計画を立てていくことが重要になります。

具体的には、承継時期や方法、承継後のビジョンや方針、社員の役割や権限、資金調達などを検討していきたいです。

▼参考
事業承継の計画を作る上で考えておきたいこと|事業承継の計画作成3つのステップ

従業員とのコミュニケーション

従業員承継では、従業員の協力が不可欠です。

今まで同僚として働いてきた従業員が社長になるため、気持ち的に抵抗感や不満を感じる従業員もいるかもしれません。

従業員に対し、承継の意義や目的、従業員の役割や期待、今後のビジョンや方針などを説明し、コミュニケーションを図ることが大切です。また、承継についての不安や疑問に対しても丁寧に説明していく姿勢が求められます。

後継者育成

従業員承継を成功させるためには、後継者候補への育成が欠かせません。

経営を継続していくためには、後継者候補がビジネスの基礎的な知識やスキルを持っていることが不可欠です。

研修や教育プログラムの整備など、後継者候補や他の従業員のスキルアップにも力を入れるといいでしょう。

▼参考
事業承継までにどう社内の後継者を育成するか|リソースの限られた中小企業

資金調達の準備

従業員承継を行うには、後継者に多額の資金が必要になる場合があります。そのため、資金調達の準備を行うことが必要です。

金融機関からの借入、事業承継税制等の制度利用を含め、顧問の税理士と相談するところから始めるといいかと思います。

まとめ

従業員承継のメリットとデメリット、承継までに準備をしたいことなどを見てきました。

事業を承継する親族がいない場合、従業員への引き継ぎを考えるケースが多いです。M&Aの件数も増えてはいますが、実際にM&Aを選択肢とすることに抵抗感を覚える社長も多いようです。

従業員への承継という選択肢を取る場合、事前にメリットやデメリットを押さえておくとスムーズな引き継ぎがしやくなります。

事業規模や、会社個々の事情によっても、上に挙げたメリットやデメリットの重みが変わります。会社の実情に合わせて丁寧に検討していくことでスムーズな引き継ぎをしていきたいです。

事業承継に関するご相談

35歳のときに40年以上続く会社を後継者として 事業承継を行い、6年間代表として経営に携わりました。代表を退任後は、自身の経験をもとに東京都を中心に中小企業の事業承継を支援しています。中小企業診断士/M&A支援機関登録/やまなし産業支援機構派遣登録専門家