事業承継時に会社の理念を作る3つのメリットと取り入れたい視点|中小企業向け

こんにちは、3Cサポートの平山です。

多くの中小企業では、社長の思想や価値観が色濃く会社文化に反映されます。社員数が少なければそれだけ社長の個性による影響も大きくなります。

事業承継を行うと、先代社長と後継社長の考え方の違いから、会社の文化にも変化が出てきます。

この変化のタイミングで会社の支柱でもある理念を作ることをおすすめしています。今回は、事業承継時に会社の理念を作ることに関して考えていきます。

目次

会社の理念

理念とは

会社の理念といっても、いろいろな用語や定義があります。

企業理念、経営理念、ミッション、ビジョン、バリュー、行動指針・・・

中小企業、特に規模が小さい会社はこの用語の区別をそこまでしなくてもいいと思います。厳密にしすぎると、かえって社員への浸透が困難になります。

大事なのは、会社全体としての考え方をしっかり定め、会社全体で共有できるものにすることです。

ここでいう「会社の理念」は、主に企業理念と経営理念をまとめたものとして捉えていきます。

(参考)

企業理念:会社の成り立ちや創業の経緯、会社の在り方、存在意義などを明確にしたもの

経営理念:経営者の価値観、哲学、信念に基づいた経営のあり方を示したもの

会社の理念はあるか

会社の理念はありますか?

事業承継を考えている会社は社歴も長く、会社の理念を明文化しないままここまできていることも多いです。社長の価値観で引っ張ってきたという面もあり、明文化しなくても社員がまとまっていたということもあるかもしれません。

事業承継のタイミングで会社の理念がないのであれば、この機会に作成することをおすすめします。理念が明文化されてあったとしても、後継者の思いを盛り込んだものに刷新することもおすすめです。

中小企業庁によると、中小企業が経営理念などを策定したきっかけで一番多いのは、「事業の継承・経営者の交代」になっています(「2022年版 中小企業白書」)。

(一部加工)

会社が大きく変化するときは、会社の理念を作るいいタイミングです。

会社の理念が社員に浸透しているか

会社の理念があると、会社に関わるすべての人が自身の行動の指針にできます。理念は組織をまとめる力を持っています。

ただ、実際には、会社の理念はしっかり明文化されていても、社員に浸透していないケースも見受けられます。「会社の理念を見たこともない」という社員がいることも。

会社の理念を作ったあと、どう社員全員に浸透させるかということも大きな課題になります。

事業承継時に会社の理念を作る3つのメリット

事業承継のタイミングで会社の理念を作ることにはメリットがあります。

1. 事業計画が立てやすくなる

先代社長からバトンを受け取る際、後継社長はその後の事業計画を立てます。会社の理念があると、この事業計画が立てやすくなります。

事業計画では、会社の理念に基づき、今後の方向性を考え、そのために取るべき行動を定め、スケジュールに落とし込んでいきます。

会社の理念が事業計画全体を貫く背骨のようになっていることが理想です。

▼参考
事業承継の際に後継者が作りたい今後の事業に関する計画|後継者向け

2. 社員を1つにする

会社の理念がしっかり定まっていると、社員の気持ちを1つにまとめる効果があります。

事業承継は会社にとって大きなイベントです。変化が大きいため、社員もこれからどうなっていくのか不安を覚えます。会社の理念を社員と共有することで、社員がこれからどこを向いて行動すればいいかを理解することができ、結果として不安の解消にもつながります。

また、社員のモチベーションが上がることも期待できます。

理念を作成した会社の半数で、社員のモチベーション向上に寄与したという結果も出ています(「2022年版 中小企業白書」)。

(一部加工)

3. 後継者の経営判断の支えになる

会社の理念がしっかり定まっていると、経営判断で迷ったときの参考になります。

経営をしていると、大きなことから小さなことまで判断を迫られます。悩んでいる暇もなく、短時間で判断しないといけないこともあります。ときには、判断に困る内容もあります。

そんなとき、会社の理念に立ち返ると、判断がしやすくなります。

私が会社の経営をしていた際、判断に困るケースも多々ありました。そのときは会社の理念に立ち返るようにしていました。そうすることで決断する決心がついたことが何度もあります。

会社の理念づくりで取り入れたい視点

どのように会社の理念を作ればいいのか?

会社の理念づくりで後継者として考えたい視点をご紹介します。

視点① 今までの価値観

事業をここまで成長させ存続してきたことのベースにあるのは、現社長の価値観です。今まで会社としてどのようなことを重視し、何を目的として事業を行ってきたのか。これらを再認識するところから始めたいです。

そして、どのような考え方が会社の中心にあるのか、どのような価値観を引き継いでいくのか、どこを修正していくのかを検討します。

視点② 後継者の価値観

これからの事業は後継者がリードすることになります。後継者には社長とは違った価値観や信念があるはずです。

後継者には今までの価値観がどう映っているのか。そして、どういった新しい価値観を盛り込んで事業を引き継いでいくのか。こういったことをじっくり考えていきたいです。

視点③ 社員を巻き込む

会社の理念を作る作業で、社員を巻き込んでいくことも有効です。

会社の理念を作ったあとには、「社員に理念を浸透させる」ということが大きな課題になります。社員が会社の理念を「自分事」として捉えられるかが大きなポイントです。

社員が今までこの会社で大事にしてきた価値観もあるはずです。そういったことを出してもらい、会社の理念に盛り込んでいけると、出来上がった会社の理念が社員にとって「自分事」になりやすくなります。

社員を巻き込む上で、気にしたいポイントもいくつかあります。

* 場づくり

社員が自身の価値観や信念を忖度なしで出すためには、それなりの「場」を作ることが欠かせません。

いかにリラックスした状態を作れるか。お菓子やジュースなどを準備して、気兼ねなく発言できる環境にすることも有効です。

また、どんな発言に対しても反論は絶対に避けるべきです。社長や後継者がその場にいることで、社員の発言がしづらいということが想定されるのであれば、席を外すということも必要になります。

* プロセスの見える化

会社の理念づくりのプロセスを見える化することで、社員は自身の価値観がどのように会社の理念に盛り込まれていくのかが理解できるようになります。たとえ自身の発言が反映されなかったとしても、プロセスが見えていると納得感は得られやすくなります。

* 外部ファシリテーターの活用

社員を巻き込んで会社の理念を作る際には、客観的に情報を整理できる外部のファリシテーターを活用することも有益です。

社長や後継者が「みんなで会社の理念を作るぞ!」と旗を立てても、社員が自由に意見を言えないことも考えられます。

できるだけ客観的な視点で理念作りを見守り、ときには軌道修正をする役割を持った人も必要になります。

こういうときには、外部の人にこの役割を依頼するといいでしょう。

参考:「価値観」の見つけ方

「価値観」とは、その人が何かに対して重要だと認識していることです。これをどう見つけていくかを簡単にご紹介します。参考にしてみてください。

次のような質問を繰り返すことで、その人の「価値観」がわかるようになります。

「〇〇に関して、あなたが重要だと思っていることは何ですか?」

例)

お客様対応で、あなたが重要だと思っていることは何ですか?

商品・サービスで、あながた重要だと思っていることは何ですか?

このような同じ質問を同じ人に5回程度することで、5つの答え(価値観)が得られます。出てきた価値観の中で一番重要と思うものを再度選んでもらいます。それがこの人にとって、〇〇に関して一番大事にしている価値観ということになります。

まとめ

事業承継のタイミングで会社の理念を作ることのメリットと、理念づくりで取り入れたい視点を考えてきました。

この会社の理念づくりは、後継者が主体となって取り組むことが大事です。出来上がった理念を社員と共有し、これからの会社のステージを理念と共に歩んで欲しいと思います。

会社の理念づくりのご相談

35歳のときに40年以上続く会社を後継者として 事業承継を行い、6年間代表として経営に携わりました。代表を退任後は、自身の経験をもとに東京都を中心に中小企業の事業承継を支援しています。中小企業診断士/M&A支援機関登録/やまなし産業支援機構派遣登録専門家