事業承継までにどう社内の後継者を育成するか|リソースの限られた中小企業

こんにちは、3Cサポートの平山です。

事業承継を考え始めたときに後継者を誰にするかで悩む社長も多いと思います。親族内に後継者候補がいるのかどうか、従業員の中に後継者候補がいるのかどうか。候補がいても思い切ってバトンを渡すことを躊躇してしまうこともあります。

リソースが限られている中小企業では、後継者候補を選んでいる余裕がないかもしれません。事業を継続させていくためには、誰かにバトンを受け取ってもらわないといけない。

リソースに限りのある中小企業で、どのように社内にいる後継者(子ども・社員)を育成していけばいいかを考えてみたいと思います。

目次

後継者の育成は必要?

事業承継を考えるときに「後継者育成」がテーマになることがよくあります。後継者を育てる「後継者塾」のようなものを開いている団体もあります。

そもそも、後継者の育成は必要?

このように疑問を持つ社長もいます。特に創業社長は、自分で切り拓き会社と共に自己成長してきました。経営者としての学びは実践の場からであったと思います。

後継者も実践を積んでいくことで成長すれば良い。

そう感じるかもしれません。

確かに、外部の「後継者塾」に参加しただけでは実践の場ではあまり役に立たないかもしれません。

私が中小企業の経営を引き継いだとき、中小企業診断士の資格も取得していたので、経営に関する最低限の知識はありました。でも、実践の場ではほとんど役に立ちませんでした。

では、後継者の育成を考えるときには、何を重視していけばいいのでしょうか?

何を重視して後継者を育成するか

「社長」と「後継者」の違い

まず考えておきたいこととして、社長(特に創業社長)と社内にいる後継者には大きな違いがあるということです。

社長は自身でこの会社を引っ張ってきました。判断力や行動力もあり、何かにチャレンジする勇気もあります。創業社長であれば、ゼロから会社を成長させてきました。苦しい時期も乗り越え、資金繰りにも追われ、それでも社員とその家族を守ってきました。

一方で、後継者は会社内で働いてきた社員です。お給料も毎月一定額が支給されます。修羅場もそうそうあるわけではありません。

この両者には天と地ほどの「意識」の差があります。

後継者がバトンを受け取るということは、この「意識」を地から天へ引き上げることになります。

意識

どのように後継者の「意識」を醸成していくのか。

ここが大きな課題のひとつになります。

「社長」というと良いイメージを抱く人もいます。報酬も高く、権限もあり、好きなことができ、華やかなど。

でも、そんなに甘くはなく、中小企業の社長はそのイメージとかけ離れているといってもいいかと思います。

後継者には、まず現実の「社長像」を示すことが有効です。もちろん良いこともありますが、泥臭いこともたくさんあります。そこをしっかり示すことで、後継者の「社長」というイメージを作り変えていくことが大事になります。

そのイメージがないまま後継者がバトンを受け取ると、よからぬ方向へ行く場合もあります。

ある会社の話です。

創業者の娘さんと婚約していた男性が会社の社長になりました。社長になって周りからチヤホヤされ、指示すれば社員は動く。どんどん私利私欲で行動し、会社のお金で毎晩飲み歩くようになりました。社員の心は離れ、会社も傾き、娘さんとの婚約は破棄になり、結果としてその社長は会社を去ることになりました。

きっとその人が社長になるときに、「社長」というイメージを履き違えていたのでしょう。

意思決定

経営者にとって大事な仕事は意思決定です。小さなことから大きなことまで、常に意思決定に迫られます。

物事を適切に捉え、判断し、何をするか決め、実行に移す。

後継者はこの流れをできるようにならないといけません。

そのためには何が必要か。

感情のコントロール

物事を適切に捉えて判断するためには、感情のコントロールが必要不可欠です。

怒り、恐れ、不安、惑いなどの感情が心を占有すると、目の前の物事を適切に捉えることができなくなります。

後継者には、せめて意思決定の際に自分自身の感情をコントロールできるようになってもらいたいです。

コミュニケーション

感情のコントロールができ、物事を冷静に捉え判断することができるようになりました。決めたことを実行に移す際に必要になるのが「コミュニケーション力」です。

社長は権限があるので指示すると社員は動いてくれます。でも、社員とどうコミュニケーションを取るかで社員の動き方が変わります。結果も違ってきます。

正しい意思決定をしてもコミュニケーション力の欠如で求めている結果が出ない、ということは避けたいです。

後継者はこのコミュニケーションの大切さを学ぶことが大切になります。

経営に関する知識

経営に関する知識は必要か?

もちろん、経営に関する知識があるにこしたことはありません。でも、実践の場で少しずつ身につけていけばいいと思います。

例えば、「後継者塾」などで財務諸表の見方を教えているところがあります。それは大事なことではありますが、経営者としてバトンを受け取ったら、毎月嫌でも財務諸表を見ることになります。内容がわからなければ経営判断できないので、その都度、顧問税理士へ聞いて勉強していけばいいと思います。

いつから後継者の育成を始めるか

後継者の育成はいつから始めるか?

事業承継を考え始めたら、すぐにでも取りかかりたいです。

人が成長するには時間がかかります。また、その後継者が本当にバトンを引き継ぐ適任者かどうかも見極めていかないといけません。そのためには、できるだけ長い時間で後継者を育成してくことが有効になります。

誰を後継者として育成するか

経営者としてどんな資質を重視するかによりますが、多くの社長を見ていると、後継者には「才」より「徳」を有する人を選ぶ傾向が多いようです。

中国の古典にもあります。

徳は才の主、才は徳の奴なり

『菜根譚』

リソースが限られている中小企業では、後継者候補となる人物が限定されることもあります。

それでも、その後継者の持つ「徳」を伸ばすことに重点を置いて育成していくといいのではないかと思います。

どのように後継者を育成するか

実践の場

実践の場で後継者を育成していくことをおすすめしています。

例えば、後継者の伸ばしたい部分が「意思決定」だとしたら、実際の仕事の場で後継者に意思決定する機会をたくさん与えます。なぜその意思決定をしたのかを一緒に確認していくことで、後継者の学びにつながります。また、意思決定には責任もついてきますので、後継者の責任感を醸成することにもなります。

修羅場を経験させたければ、そういった環境に後継者を放り込むのも選択肢です。後継者が社長になってから修羅場を迎えたら誰にも頼れません。守られた環境で一度経験させておくのも成長のためには有効です。もちろん社長になってから修羅場なんてない方がいいのですが。

研修

外部で後継者育成の研修が開催されています。余裕があるようなら、こういう場も活用すると良いと思います。

実践で学ぶことの方が大きいですが、研修などを受けると客観的に自分を見直す良い機会になります。

「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「修養」などをテーマにしている研修はおすすめです。

まとめ

リソースが限られた中小企業にとって、後継者の育成は大きな課題になります。

事業承継を考え始めたら、すぐにでも後継者の育成に取り掛かりたいです。まずは実践の場で育成していくと良いのではないでしょうか。今まで以上の負荷を与えることで、後継者は成長していきます。

時間的、予算的に余裕があれば、外部の研修を受けさせることも有効です。

そして忘れてはいけないことは、後継者の育成と同時に、後継者が「引き継ぎたい」と思える環境を作ることも大事になります。

▼参考
社員の後継者候補が事業承継をためらってしまうワケ|従業員承継で社長が押さえておきたい後継者視点

事業承継に関するご相談

35歳のときに40年以上続く会社を後継者として 事業承継を行い、6年間代表として経営に携わりました。代表を退任後は、自身の経験をもとに東京都を中心に中小企業の事業承継を支援しています。中小企業診断士/M&A支援機関登録/やまなし産業支援機構派遣登録専門家