『知の技法』(小林康夫・船曳建夫編/東京大学出版会)
東京大学教養学部「基礎演習」のサブ・テキストとして1994年に編集された本です。
身につけておきたい「知の技法」について書かれています。
3部構成となっています。
第1部 学問の行為論
第2部 認識の技術
第3部 表現の技術
どういった「知の技術」があり、そして論文等で表現する際にはどういったことに気をつけなければいいかが書かれています。
第2部は14名の専門家のレポートとなっており、それぞれの「知の技法」が垣間見えます。
フィールドワーク、アンケート、翻訳、統計、比較、関係性など、幅広いテーマで専門家がどういった視点で研究を進めているのかがわかります。
第3部では、表現する際の技術が出てきます。
論文の書き方、口頭で発表する際の心得、テクノロジーの利用など。
刊行から30年が経っているため、今とはまた違う部分もあるとは思いますが、読み継がれているテキストなので学びも多いです。
論文の書き方について読んでいるとき、学生時代の頃を思い出しました。
私はアメリカの大学へ通っていたのですが、エッセイ(小論文)を書くことは日常茶飯事で書き方をみっちり叩き込まれました。
あの頃にあれだけ書いていたので、今でも書き方の「作法」はなんとなく覚えており、今後論文を書くことがあったとしたら(ないとは思いますが)抵抗感はなさそうです。
第2部の中で、国際関係の専門家である山影進さんが「関係」の大事さを書いているのですが、この記述が印象に残りました。
「個人という単位に注目するのではなく、関係性からまとまりを捉えようとする認識に立ってこそ、なぜ、ある場合には特定の相互排他的アイデンティティで集団が、国家が、民族が互いに対立し、殺し合うのかを、人間性の根源である社会的な関係の多重性の上に議論することが可能になるのではないだろうか。」(p.205)
世界のニュースを見ていて、「なぜあの指導者はこんな決断するのだろう?」と思うことがあります。
個人に注目してもその「なぜ」はわからず、すべては他との関係性にあるものなので、その関係性を見ていかないといけない。
関係性に注目するという視点が参考になりました。
結びとして、編者の船曳さんが「意見を作る」ことの大切さを書いています。
発表やセミナー等を聞いているとき、自然に意見が湧き上がるというのは誤りであり、自ら「意見を作る」ことをしないといけない。
「意見は作るものです。(中略)適切な発言をするためには『なにか発言をしてやろう』と最初から意識的に心がけることが必要です。」(p.270)
そして、「不同意」(相手と違った)の意見があってこそ議論が進んでいくと。
敢えて相手との違いを見つけながら自分の意見を作る。
それを発言していくことで、その発表やセミナーの場がより生きた場になっていく。
この視点は今の私にとって大きな学びとなりました。
日々心がけていきたいと思います。
こういった本をたまに読むと刺激になります。
学生時代に授業として受けてみたかったです。