夜にビールを飲んでくつろいでいるとスマホに着信がありました。
86歳の社長からです。
「誰にも聞けなくて、教えて欲しいんだよね」
「どうしました?」
「0.5分の1ってどういうことだったかなあ」
0.5分の1・・・1/0.5
最近使っていない脳みそのあの部分を刺激されている感じになり、ひとりで挙動不審者のように目を上下左右にぐるぐる回す。
ああ、そうか、あったあった、あれだ、あれ、10掛けるってやつだ。
「分母の0.5に10を掛ければ5になりますよね。分子の1に10をかければ10になるので、10割る5ですね」
「そうだよね、それでいいんだよねえ」
「はい、そうです」
「ということは、2ということだよね」
あ、ん????
2?
0.5分の1って2?
中学のころ数学を担当していた先生が好きでした。
先生が話し始めると、笑いが止まらなくなる。
「田中邦衛」そっくり。
「ここぉ〜のぉしきにぃ、これぇをいれぇてぇ〜」
もう気になって、気になって、授業に集中できない。
「みんなぁ、わかぁりますかぁ〜」
え、先生、わざとですか。
当時は『北の国から』は見たことありませんでした。
「田中邦衛」といえば、小堺一機さんの「ほたる〜うっ」。
なにもモノマネ番組を見なくても、学校に行けば「田中邦衛」に会える。
先生が入ってくる前から、我ら生徒はスイッチが入っているのです。
通っていた学習塾は2階建の昭和な小さな家でした。
1階に7〜8人入れる教室、2階に4~5名の小ぶりなスペースしかない。
先生おひとりで全ての教科を教えていました。
「がんも〜どき〜」
生徒が間違えると、ホワイトボードにがんもどきの形を描いていくのです。
「がんも〜どき〜」
リズムが心地よく、みんなで真似をしていました。
味なんてわからないのに。
中学3年のとき、2階建ビルの2階1部屋へ移転しました。
お駄賃もらって友人と引越し作業を手伝いました。
軽トラックの荷台に座り、冒険している気持ちになりました。
塾の名称は「グレイス」へ。
先生の娘さんが「恵さん」だから、この名前にしたそうです。
ひんやりする白い壁と窓ガラスに囲まれて、相変わらず聞こえてくる「がんも〜どき〜」。
最近、近くを通ったら「グレイス」の看板がはずされていました。
お疲れ様でした。
冬はおでんがいい。
一番好きな具は、がんもどきです。
