1106 『雪国』

『雪国』(川端康成著/角川文庫)

じっくり味わいたい文章というものがあります。

五感を使った文章、情景が浮かぶ文章、少しわかりづらいが意味がありそうな文章。

これらをさらっと読んでしまうと、私の頭には入ってきません。

薄月夜よりも淡い星明りなのだろうが、どんな満月の空よりも天の河は明るく、地上になんの影もないほのかさに駒子の顔が古い面のように浮んで、女の匂いのすることが不思議だった。

(p. 151)

遠くに見える天の河の明るさと手前にいる駒子の顔との対比、そして駒子の匂いで存在が際立つ様。

星の群が目へ近づいて来るにつれて、空はいよいよ遠く夜の色を深めた。国境の山々はもう重なりも見分けられず、そのかわりそれだけの厚さがありそうないぶした黒で、星空の裾に重みを垂れていた。

(p. 40)

重なり合った山々の重みが星空という着物の裾を引っ張っているような印象。

「いぶした黒」という表現がまたいい。

極め付けはこの文章。

もう三時間も前のこと、島村は退屈まぎれに左手の人差し指をいろいろに動かして眺めては、結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている、はっきり思い出そうとあせればあせるほど、つかみどころなくぼやけてゆく記憶の頼りなさのうちに、この指だけは女の触感で今も濡れていて、自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだと、不思議に思いながら、鼻につけて匂いを嗅いでみたりしていたが、ふとその指で窓ガラスに線を引くと、そこに女の片眼がはっきり浮き出たのだった。

(p. 9)

一文です。

五感で表現され、官能的でもある。

久しぶりに会う女(駒子)への思いと、列車の窓に反射した向こう側の女(葉子)のイメージ。

この作品には「圧倒的な世界観」を感じます。

雪の降る閉ざされた地域の温泉宿、その世界観の中で島村と芸者の駒子の触れ合いが描かれている。

雪のもつ力でしょうか。

それとも、昭和初期という空気感がそうさせているのでしょうか。

スマホのある現代では出せない世界観であり、この閉ざされた空間だからこそ惹きつけるものがあるように思います。

この作品の描き方に魅了されています。

休日の午後に数ページをゆったり味わうのが私にはちょうどいい。

経営経験やコーチングの実践を通じて、深い対話により経営の選択肢を広げ、納得感のある意思決定をご支援しています。また、組織やチームの関係性を育む支援に取り組んでいます。3Cサポーター/中小企業診断士
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