なんでみんな美味そうにビールを飲むのか ― 前から疑問に思っています。
あんなに苦くて、冷たくて、泡が鼻の下にまとわりつくのに。
はたして味わっているのだろうか。
「最初の1杯が最高」につられているだけではないのか。
ビールを何杯も飲み続ける人は少ない。
以前テレビで歌舞伎の演目が流れていました。
十八代目中村勘三郎さんだったと思いますが、なみなみと日本酒がつがれている赤色の大きな盃に、息をふきかけながら、これでもかというくらいの笑顔で、口をつけるのです。
あのときの表情が大好きです。
「至福の時」という言葉の例を出せといわれたら、私は真っ先にあのシーンを提示します。
20代のころ、年配のおじさんたちに可愛がられ、よく飲みに連れて行ってもらいました。
普段はぶっきらぼうで近寄りがたいのですが、お酒を飲むと、メガネの奥にあるまつ毛の長い大きな目がゆるむ人がいました。
決まって飲むのは焼酎水割り。
「どのくらい焼酎を入れますか?」と聞くと、親指と人差し指を狭めて「これくらい」と返すのですが、私はその倍は入れて差し上げる。
口癖は「俺が若い頃はイケメンだったんだぜ」。
私は常にビールでした。
ビールで思い出すのは親戚の家でのこと。
小学生のとき、食卓で出ていた瓶ビールをコップに注ぎ、従兄弟と一口だけ飲んだことがあります。
子どもの舌には合わない味ですが、ちょっと大人ぶって「オレは飲めるぜ」なんて言っていたように思います。
銘柄はなんだったのだろう、麒麟かな。
飲んでもいい年齢になってからビールが好きになりました。
はじめのうちはビール缶を家で飲むことが楽しみになり、しだいに銘柄での味の違いを楽しむようになりました。
インターネットで銘柄比較をしているものを参考にしながら、2〜3缶買っては飲み比べる。
麒麟の「クラシックラガー」がお気に入りでした。
あの昔ながら(と思われる)の苦い味のなかに、目をつむるとほんのりわかるコーンの味。
缶のうしろの「コーンスターチ」の文字を見つめながら、何度もうなずく。
「ここまでビールを味わっている人はいないだろ」
じっくり味わってみてください、本当にとうもろこしの味がするんです。
「え、ビールに戻るんですか」
行きつけの上野の焼き鳥店の店主からよく突っ込まれます。
大ジョッキのプレモルを数杯飲んだあと、ホッピー、レモンサワーと変えていき、最後にまたビールを2〜3杯いただく。
だってビールで締めたいじゃないですか。
最近風邪を引いて禁酒していました。
体調は万全ではなかったのですが1週間ぶりの乾杯です。
ビール缶を開け、グラスに勢いよく注ぎ、一旦30秒程度置き、固くなった泡の下に黄金色の液体を注いでいきます。
この瞬間は時が止まります。
「今日もお疲れ様!かんぱーい」
・・・あれ、美味しくない。
どれだけビールが好きでも、本当に味が美味いと思えるのは、いくつかの条件が重なっているとき。
私の場合は月に1回あるかないか。
そのためには体調を整え、適度に身体を動かしておかないといけない。
「海外の酒が好きなんて」とどこかで申し訳なさを感じつつも、私はその1回を求めて今日もビール缶を開けるのです。
