『リア王』(ウィリアム・シェイクスピア著/小田島雄志訳/白水社/1983年)

手に入りにくいものを得たとき、噛み締めたくなります。
日曜日の朝にインターネットで本を買うことがくつろぎのひとときです。
なかなか手に入りにくいのが、白水社のシェイクスピア。
やっと出てきたと思って購入するも、「在庫切れのため手配できませんでした」とお詫びのキャンセル案内が来るしまつ。
仕事が早く切り上がったので駅前の本屋に立ち寄ると、2階の隅のほうの棚にひっそりと並ぶ白水社のシェイクスピがありました。
迷わず『リア王』を手に取り、風邪を引いて咳が止まらない中、ページを繰りました。
新潮文庫の『リア王』は持っています。
英語版も持っています。
今は白水社を読みたいのです。
訳がいいとかわるいとかはわかりません。
縦長で余白が多いところ、緑と黄色の表紙で本棚に10冊ちかく並ぶ様がいいのです。
老いたブリテン王のリアは、退位にともない3人の娘に領土を3等分することにします。
おまえたちのだれがわしをいちばん愛してくれるかな?
親を思う心のもっとも深いものに、わしは
もっともゆたかな情愛を示したいのだ。
(第一幕第一場、p. 11)
上2人の娘はおべんちゃらを使って父を喜ばせますが、末娘のコーディーリアは率直な物言いをします。
激怒した父はコーディーリアを勘当し全ての財産を上2人に譲ってしまう。
ここが悲劇のはじまり。
上2人の娘はもうろくジジイである父をうとましく思い、あしらうようになっていきます。
権力があるからなのか、周りからチヤホヤされてきたからなのか。
娘の性格をわかっていれば、こうはならなかったはずなのに。
そこにリアという人の弱さがありそうです。
最後までリアの味方だったのは末娘でした。
リアはフランス王に嫁いだコーディーリアと再会します。
そこで赦しを乞うわけです。
混乱しているブリテンとフランスが戦うことになり、リアとコーディーリアはブリテン軍に捕虜として捕えられます。
牢獄にいたコーディーリアは追手に殺されます。
コーディーリアの亡骸を抱いたリアが現れ、目を開けない娘に語りかけながら、リアも息を引き取ります。
リアには「セカンドチャンス」はなかった。
コーディーリアへの懺悔の気持ちと上2人の娘の裏切りに打ちひしがれ、精神的にも壊れてしまう。
リアにとって「狂気」は自己防衛の手段だったのかもしれません。
狂っているうちは現実から目を背けることができる。
コーディーリアと再開し赦しを乞うたとき、狂気から正気に戻ります。
現実を直視せざるを得なくなる。
亡骸を抱くリアは、この現実の重みに耐えきれなくなるのです。
最後のシーンを自分ならどう演出するだろうか。
娘の亡骸を抱いて登場するリア。
リアは娘を直視しながら、ひざが崩れ、娘を横たえる。
リアは娘から目を離すことはできない。
話しかけても、話しかけても、娘はもう目を開かない。
その現実の重みに耐えきれなくなるように、リアは娘におおいかぶさり身体機能が止まっていく。
もっとも年老いたかたがたがもっとも苦しみに耐えられた、
若いわれわれにはこれほどの苦しみ、たえてあるまい。
(第五幕第三場、p. 234)
このセリフで幕が下ります。
劇場をあとにする観客は、いやなものを引きずりながら家に帰ることになるでしょう。
この作品には救済がない。
セカンドチャンスがないのです。
三連休の最終日、外に出たくなるほどの晴天です。
『リア』を思いながら長袖のシャツの袖をまくり浅川の土手を散歩しました。
強風で定まらないペース、汗ばむマスク。
咳止め薬を買って帰ると、ベランダの洗濯物が縦横無尽に荒れ狂っていました。
