『敵とのコラボレーション』(アダム・カヘン著/英治出版/2018年)

世界的ファシリテーターのアダム・カヘンさんの著書です。
最近、アダム・カヘンさんの本を集中的に読んでいます。
本書は、「賛同できない人、好きではない人、信頼できない人」とどう協働していくかが書かれています。
この「信頼できない人とどう協働するか」という視点が面白い。
信頼できない人とは一緒に仕事したくない。
でも、時と場合によっては、そういう人とも協働しなければいけないことがある。
そういうときのヒントになります。
本書のユニークなポイントは、問題解決では必ずしもコラボレーションだけが唯一の選択肢ではないと言い切っていることです。
「問題の複合する状況に直面しているときは常に、政治でも仕事でも家庭でも、四通りの反応、すなわちコラボレーション、強制、適応、離脱の選択肢がある」(p. 53)
対話して相手とコラボレーションしながら問題を解決することが「正しい」と思いがちですが、それができないこともあるという前提を置いています。
状況を変えられる望みがないとき、変化を一方的に起こせるときは、コラボレーション以外の選択肢になる。
つまり、状況を変えられる望みがあり、その変化を一方的に起こせないと思ったとき、はじめて他者と協働するという選択肢(コラボレーション)になります。
コラボレーションには2つのアプローチがあります。
「従来型コラボレーション」と「ストレッチ・コラボレーション」です。
従来型コラボレーションは、コントロールをして計画通りに進めていくアプローチです。
このアプローチで複雑な状況で多様な人と協働が難しくなります。
本書はストレッチ・コラボレーションについて書かれており、「3つのストレッチ」を強調しています。
- 対立とつながりを受容すること
- 進むべき道を実験すること
- ゲームに足を踏み入れること
1つ目の「対立とつながり」は「力と愛」に置き換えることができます。
他者との協働では、力だけで押し切る必要はないし、愛だけで関わる必要はない。
どちらかに偏る傾向がありますが、そうではなく両方のバランスをとる方が良いということです。
「ストレッチ・コラボレーションでは、私たち全員が愛と力の両方を受け入れることが求められる。抑制、すなわち強いほうの極を弱めるか、弱いほうの極を誰かに任せているかぎり、手ごわい状況でのコラボレーションには成功しないだろう。」(p. 120)
私自身は相手に寄り添うことに傾く傾向がありますが、ときには正面切って相手にぶつかる必要があるということに気づかされました。
2つ目は、「進む道を協創する」(p. 133)です。
実験しながら一緒に進んでいけばいい。
「人が進むべき道を見つけるのは、必ずしもよい地図や計画があるからではなく、『行動を開始し、ある状況で具体的な結果を生み出し、そこから今何が起きているか、何を説明する必要があるか、次に何をすべきかを知る』からだ。明確なビジョンや目標は必要ない。必要なのは、克服しようとしている課題または問題の複合する状況についての共通の問題意識だけだ」(p. 136)
この文章を読んで感じたことは、支援の際に計画を立てることに夢中になるあまり、そのあとの「実行」への意識が薄くなりがちだということです。
実行できるような仕組みを一緒に作っていくことの方が、支援としては数倍も意味があると気づかされました。
3つ目は、自分が主体的に関わるということです。
「複雑な状況で重要な物事を成し遂げたいなら、傍観しているばかり、人を責めたり、言いくるめたりしているばかりというわけにはいかない。自分も足を踏み入れなければならないのだ。」(p. 153)
自分が問題の一因であることを認識し、自分が変わることからはじめないといけない。
それは自分が傷つくというリスクを負うということも意味しています。
だからこそ、この3つ目は難問であるとカヘンさんは指摘しています。
一方で、自分だけでは結果が出ないことや変化が起きないこともあるという認識も必要です。
「私たちがやっている大規模な変革の仕事が効果を出しているかどうか、どうすればわかるかと聞いたことがあった。『自分が何かを変えていると証明したいと望むのはうぬぼれだ』とマイラは言った。(中略)この助言を聞いて、自分の仕事は誠実に行うが、自分にはどうにもならない結果の責任は負わなくてよいのだと私は解放された。」(p. 163)
「何かを変えていると証明したいと望むのはうぬぼれだ」という言葉が印象に残りました。
アダム・カヘンさんの本に惹かれる理由は、これらの考え方が現場から積み上がってきている内容だからです。
現場で実践する中では失敗も多かったと想像します。
もがきながら、より良くしていくためにと試行錯誤した結果が見て取れます。
現場の人でないと書けないものだなと思った箇所がいくつもあります。
出版が古い著書から読んでいくと、試行錯誤の上に考え方が変化してきているということがわかります。
私もこういう実践者でありたいと思っています。
