『民主主義と資本主義の危機』(マーティン・ウルフ著/日本経済新聞出版)

フィナンシャル・タイムズ紙のコメンテーターであるマーティン・ウルフさんの本です。
お客様への訪問の前に時間潰しで入った小さな書店で本書と出会いました。
米国の「分断」に関心を持っていた時期であったため、タイトルに惹かれました。
また、フィナンシャル・タイムズ紙の記事が日経新聞でもたまに出ていたので、マーティン・ウルフさんがどういう考えを持っているのかにも興味がありました。
民主主義と資本主義を両立させるためには繊細なバランスを維持することが必要になるといいます。
「自由民主主義と資本主義の結婚は非常に壊れやすいものだ。(中略)うまくバランスが取れれば、自由民主主義と市場資本主義の結婚は人類史上もっとも成功する体制となる。」(p.473)
そして、民主主義と経済の自由度とには関係もあります。
「『経済の自由度』が高い国は総じて民主主義であり、民主主義国は『経済の自由度』が高い傾向がはっきりしている。」(p.110)
ただ、現在は民主主義も資本主義も再生が必要な状態にあると著者は指摘します。
格差が広がり、脱工業化が進み、働き盛りの男性の労働参加率が減少し、生産性向上が鈍化し、家計債務が増加し、移民問題も起き、ポピュリズムが台頭している。
長期的に政府への幻滅が進行してきた中で、それが表面化したきっかけは世界金融危機だったといいます。
そして、米国ではトランプ氏が大統領に選ばれるという流れになります。
著者のウルフさんは、資本主義、民主主義の再生のための提言もしています。
1. 生活を全般的に持続可能なかたちで向上させる。
2. 働く能力があり、働く意欲がある人々によい仕事を。
3. 機会の平等。
4. 必要とする人々に安全を。
5. 少数の特権を終わらせる。(p.308)
そして、「市民」という概念を強調します。
「資本主義と民主主義の復興のカギとなるのは、市民というシンプルにして強力な観念だ。1人ひとりが消費者、労働者、事業主、貯蓄者、投資家という立場だけでなく、市民という自覚を持たなければならない。自由で民主的な社会では、人は市民という立場で結びついている。市民として考え行動することで、民主政治は生き延び、繁栄する。」(p.479)
本書は私には少し難しく、読み進めるのも楽ではありませんでした。
でも、不思議と、読んでいることが楽しくなる本でした。
ワクワクするというか、知的好奇心をくすぐられるというか、新しい世界を見せてくれるというか。
一番印象に残ったのは、世界金融危機がきっかけとなりあらゆる問題への不満が表面化し政治的変化をもたらすことになった、というところです。
「金融危機が経済的転換点のみならず政治的転換点となるのは、金融危機は具体的に目に見える形で起き、エリートたちとその体制と組織失敗が具体的に炙り出されるからだ。」(p.147)
金融危機がもたらした影響がどういったものだったのかを分析している本が紹介されているので、次はこのテーマで理解を深めていきたいと思っています。
