『日本経済の死角』(河野龍太郎著/筑摩書房/2025年)

2025年2月に出版されたときから気になっていた本です。
最近になり特に国内経済に関心が向き始めたので、本書を手に取りました。
ここ数年、実質賃金をどう上げていくかといった内容を目にするようになりました。
日本は生産性が低いといったイメージがあり、それが実質賃金が上がらない要因だと思っていました。
本書は、実質賃金が上がらないのは生産性の問題ではないと指摘します。
1998年と比較すると、時間当たり生産性は3割上昇しているといいます。
その間、大企業の利益剰余金は増え続けていますが、賃金を上げてこなかったことが要因です。
この構図をわかりやすく説明しています。
1990年代に日本の潜在成長率は急激に低下しました。
バブル崩壊の影響であると認識されていましたが、主要因は週48時間労働制から週40時間労働制へ移行したことにあるといいます。
「失われた30年」の起点となったと。
「バブルによって、売上が大きく膨らみ、経常利益も膨らんだため、労働時間の短縮が、生産性の上昇によって克服されたのだと誤認されました。」(p. 184)
2019年〜2020年には、残業規制がありました。
その後コロナになり、終息した2023年春には人手不足に陥りました。
残業規制の影響はトラック運転手など「2024年問題」に目が行きがちですが、コロナ後の停滞は残業規制の影響を大きく受けていると著者は指摘します。
「残業規制の影響で、労働力がボトルネックとなり、付加価値(実質GDP)を増やすことが難しくなっている」(p. 151)
週の労働時間や残業規制など、働き方改革による成長率低下を指摘しているところが印象に残りました。
「働き方改革ですっかり残業は『悪』となりました。日本の産業界の強みは、正社員が労働時間を伸縮させることで、需要の変動に合わせて、労働投入を調整してきたことです。長期雇用制の宿痾であった長時間労働を是正することは大事な話ですが、産業界が強みを失っていることに誰も警鐘を鳴らす人がいないのは、本当に心配です。」(p. 193)
私が製造業の事業者へ支援に入ると、限られた労働力の中でなんとか頑張っている姿を目の当たりにします。
社員の給料も上がらず、事業としても利益が出にくい状態になっているケースは多い。
「生産性を上げましょう」と国も支援策を出していますが、これまで生産性を上げてきている場合、やはり限度があります。
著者の指摘するように、労働供給力が足りていないという視点も持たなければいけないと思いました。
働く人のことを考えると、働き方をより良いものにすることが「善」だと捉えがちになります。
それが出来ていないことが会社として良くないことであり、時代遅れだと。
でも、人手不足の中、限られた人員で必要な生産量を上げるためには、ある程度の「無理」は必要になるのかもしれません。
特に中小企業はそうですよね。
本書から、中小企業支援という観点からも有益な示唆をいただきました。
出版された2月頃ではなく、今の時期に読めたことが良かったです。
