『AI医療革命 ChatGPTはいかに創られたか』(ピーター・リー、アイザック・コハネ、キャリー・ゴールドバーグ著/ソシム)
昨年英国の経済誌でこちらの原書が紹介されていたのを見て以来、日本で翻訳されるのを楽しみにしていました。
生成AI「GPT-4」の開発初期に、実験的に医療の分野から著者3名がアクセスを許可されました。
専門的な助言、レポート生成、事務負担の軽減、医療従事者不足への対処など、医療の分野で生成AIがどう貢献できるのかを探る内容となっています。
GPT-4との対話も多く収録されており、医療の知識がなくても比較的楽しく読み進めることができました。
生成AIを医療の現場で活用することの大きな可能性が見えてきます。
それと同時に、生成AIは誤りを犯しやすいことは繰り返し強調されています。
「今日の我々の最善のアドバイスは、GPT-4の出力を検証することである。そして、もし検証できないのであれば、その結果を信用しないほうが賢明であろう。」(p.175)
開発が進むにつれ誤りも少なくなることが期待できますが、やはり「検証」をしながら利用することが大事になりそうです。
ましてや、医療という人の命に関わる分野では誤りは許されません。
興味深い点が指摘されています。
「医療AIは、あなたに助言する際、あなたの保険や支払い能力を考慮するべきか」(p.252)
患者が生成AIにアドバイスをもらう際、果たして生成AIはその患者の経済力に沿ってアドバイスをするのか、それとも経済力に関わらずアドバイスをするのか。
日本のように国民皆保険制度が整っている国よりも、米国のように公的保険制度が整っていない国では大きな論点になりそうです。
医療AIは常に最新の状態に保つため、新しい情報を取り入れる定期的な更新が必要になります。
開発している企業がそこまでやれるのか、企業間でAIにトレーニングさせるデータが異なってもいいのか、それらに何らかの規制を設けるべきなのか。
こういった点も大変興味深い論点だと思います。
医療は安全性が求められるため、こういった部分も考えていかないといけないのだということがわかりました。
最後に著者はこう述べています。
「この新しい技術に直接慣れ親しむことである。(中略)自分自身の宿題をして、直接の経験を通じて自分の考えを形成し、そこから発見したことを、それが肯定的であれ、否定的であれ、中立的であれ、積極的かつ声高に主張してほしい。(中略)自分自身の意見を形成するのだ。」(p.281)
ChatGPTが話題になって1年近く経ちました。
様々な可能性を秘めているものであり、同時に課題もたくさんある。
自ら実際に触れ、生成AIを通して様々な経験をすることで、自分なりの意見を作っていきたいです。