『イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ著/日本経済新聞社/2025年)

硬派でいいから地に足をつけたい。
−−− 読了後の感想です。
2023年4月から日経新聞夕刊に連載されていた際、半分くらいまで読んでいました。
「推し活」に関心が出てきたこともあり、作品をしっかり読んでみたいと思い手に取りました。
「推し活」を軸として、40代後半男性、その娘、30代中盤女性の3人の視点で物語が進行します。
本物の気持ちとはいったい何なのか。
世間話のために食事に行くという友人を持たない中年男性の久保田は、推し活にハマる人を増やす側で働いています。
物語が進んでいくにつれ、久保田も対象に対して「熱くなる」という気持ちになっていく。
最後にこう言います。
「楽しかったし、嬉しかった。
指先ひとつで自分を使い切れるこの時代に、絶対に会いたいと思える人がいることが。
嬉しかったし、誇らしかった。
本物の気持ちで選んだ間違いの上で、脳みそを溶かして動く自分のことが。」(p. 443)
推し活でCDを何十枚も買ったり、みんなでメッセージ広告を出すためにお金を出し合ったりする人たちは、たしかに本物の気持ちで動いている。
それが充実感や幸福感につながっている。
でも、なぜ他者がつくったイメージ像に対象が向かうのだろうか。
友人や家族に同じエネルギーは向けられないのか。
近い人たちに向けると傷つくことも増えます。
みんな本物の気持ちを持ちたいのだけど、安全な領域でないと怖いのではなかろうか。
ネットやSNSも普及し、リアルなコミュニケーションが薄くなっている社会の構造ともリンクするのだと感じました。
この作品に「巧さ」を感じます。
3人の到達地点が最後にリンクするような構造となっているため、後半になっていくと俄然面白くなる。
会話文の途中でキャラクターが思っていることをオーバーラップさせていく書き方をしているので、映画を見ているような感じにもなります。
多くの人に選ばれる作品とはこういうものなんだと思いました。
ただ、私は作品へ没入することが難しかったです。
文体、言い回し、設定に違和感がありました。
3人のキャラクターは年代も性別も環境も違うのに、同じような現代語の言い回しをしている。
比喩表現が作者の「これでもか」という主張に見えてきてしまう。
30代独身女性がワンルームで住んでいて水道光熱費が2万4千円となっている・・・ホント?
地に足がつき、かつ余白のある文章が好きです。
巧さがなくても、根を張っていて欲しい。
私の本物の気持ちが向かう対象がどこにあるのか、この作品を読むことでわかった気がしました。
