『科学革命の構造 新版』(トマス・S・クーン著/青木薫訳/みすず書房/2023年)

原著は1962年に刊行されたもので、「パラダイム」という言葉が普及するきっかけになりました。
「パラダイムとは、広く認められた科学的成果であって、現場の研究者コミュニティーに対し、一定期間、模範とすべて問題および答えを与えるもの」(p. 8)
ときに、この「パラダイム」が大きく変わることがあります(パラダイム・シフト)。
それが起きると世の中は変わっていないのに当事者が見ている世界は変わってしまいます。
科学研究は、パラダイムという基盤の上で行われています。
パラダイムの中には一定のルールがあり科学者はそこで「パズル解き」をしている。
その中で「アノマリー」(予想に反して起こる事例)が発生します。
「通常科学を支配するパラダイムから導き出された予想を、自然がどういうわけか裏切っているらしい」(p. 91)ことです。
これに気づくことで「発見」が始まり、「パラダイムだった学説が修正され、アノマリーが予想される出来事になったとき」(p. 91)に「発見」が終わります。
このアノマリーが蓄積され、修正や補助仮説、場当たり対応が増えてくると、「危機」が起きます。
そして、新しいパラダイムが確立されと「危機」が終わります。
科学者は新しいパラダイムを前提として研究を進めていかなければならない。
科学者は異なる世界で仕事をすることになります。
古いパラダイムが新しいパラダイムに置き換わると、過去のパラダイムに基づくあらゆるものが新しいパラダイムのためにあったというふうに認識が書き換えられてしまう。
「昔の科学者たちは暗黙のうちに、科学の理論および実践に起こった最近の革命によって科学的であるとされ科学であるための条件ともされた一連の原則を満たす研究課題、すなわち現代と同じように規定された研究課題に取り組んでいたことにされてしまう。」(p. 212)
前のパラダイムで成果を出したことであっても、今のパラダイムのためにその成果があったことにされてしまう。
歴史認識と似ていると感じました。
歴史は勝者が作るという言い方があります。
歴史は、事実の積み重ねではなく、今あるパラダイムから見える認識であると。
パラダイムが変われば、歴史認識も変わっていく。
パラダイムとはそのくらい大きな枠組みであり、今いる我々に大きな影響を及ぼしているものということです。
本書では、この一連のパラダイム・シフトが起きる構造を浮き彫りにしています。
興味深いのは、このシフト(革命)の進歩の仕方を進化論になぞらえているところです。
科学の発展のプロセスは、目標に向かっているのではなく、原始的な始まりから出発するものであると。
「『知りたいと思うことに向かっての進歩』を、『現に知っていることからの進歩』と取り替える」(p.259)− このような概念の置き換えを著者は推奨しています。
ここで感じたのは、「目標に向かう」というのは「神」の存在をベースにしている考えではないかと。
神が作ったものを解明することがベースになると、それは「目標に向かう」ことになる。
でも、その「神」というベースがないならば、制限はなくなるため、「現時点からの進歩」と捉えることができる。
つまり、科学も大きく哲学に関連しているということだと理解しました。
本書は科学の本ではなく、思想の本です。
古典と言われるだけあり、示唆に飛んでいます。
