『遺伝子−親密なる人類史(下)』(シッダールタ・ムカジー著/早川書房)

ピュリッツァー賞受賞者のシッダールタ・ムカジーさんの著書です。
遺伝子がどのように発見され、遺伝学としてどのように発展してきたかがわかりやすく書かれています。
上下巻あるうちの下巻です。
2000年代初頭にヒトゲノム(人間の全遺伝情報)が解読され、その後ゲノム編集ができるようになりました。
遺伝子に関する技術の発展の中では、さまざまな困難がありました。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて遺伝子治療の臨床試験が行われていましたが、安全性や効果に課題があり、またインフォームドコンセントが適切に行われていなかったなど倫理的な問題も明らかに。
規制により10年近く停滞したのち、ゲノム編集等の技術もあり、遺伝子治療が進化しました。
技術が発展してくると、以前にもあった「優生学」の側面が出てきます。
重篤な遺伝子疾患をもった子どもが生まれる可能性がある場合に、着床前診断が行われます。
これは「優れた遺伝子の選別」という側面もあるといいます。
この考えが行き過ぎると、「望む特性」(身長、知能、性別など)を求める人も増えてくるのではないか。
選別ということは、そこには何を「正しい」とするのかという評価が出てくる。
それを決めるのは誰で、何をもとにすべきなのか。
結果的には多様性が失われるということにもつながるのではないか。
このような倫理的な部分が課題としてあるところに興味を感じました。
「遺伝的な弱点を洗い出された男女と、改変された遺伝的傾向を持つ男女が暮らす世界。病気はしだいに世界から消えていくかもしれないが、それと同時に、アイデンティティも消えるだろう。悲しみは消えるかもしれないが、やさしさも消えるだろう。トラウマは消えるかもしれないが、歴史も消えるだろう。ミュータントはいなくなるが、人間の多様性もなくなるだろう。弱さはなくなるが、傷つきやすさもなくなるだろう。偶然は少なくなるが、選択の機会も避けがたく、少なくなるだろう。」(p. 462)
本書は遺伝子を探究してきた人類の歴史が描かれています。
遺伝子の内容は私には難しい部分も多々あったのですが、遺伝子というのは神秘的で、奥深く、行き着くところは「我々は誰か?」という問いがあるように感じました。
視野が少し広がりました。
