中小メーカーがM&Aを進める際に気にしたい販売代理店のこと

こんにちは、3Cサポートの平山です。

商品を生産している中小メーカーがM&Aで会社を譲渡するケースがあります。その際に、商品を販売している代理店が大きく影響を受けることがあります。その販売代理店が零細企業の場合は経営に大きな打撃を与えるケースも。

私は以前、販売代理店側でメーカー側のM&Aを見たことがあります。そこで感じたことも踏まえて、中小メーカーのM&Aの際にどういったことを意識したいか考えてみたいと思います。

目次

中小M&Aで把握したい販売代理店との関係性

中小企業のメーカーと販売代理店の関係性が強いケースは多々あります。外から見ているだけではなかなか理解しづらいことも。

M&Aで中小メーカーを譲り受ける側は、この関係性をしっかり押さえておくことが大事になります。

販売代理店との歴史

譲渡企業が販売代理店とどういった経緯で取引が始まったかを見ていくことは有効です。

例えば、数十年前にある商品を開発し販売を開始。事業の拡大とともに従業員が独立して販売代理店になるケースがあります。

このような場合、メーカーと販売代理店との関係性は非常に強いものになります。販売代理店からすればメーカーの社長は元上司にあたり、力関係としてはメーカーが上になる傾向が強いです。

私が在籍していた販売代理店ではこのような形でした。メーカーとは資本関係はないものの、経営の9割はこのメーカーに依存していたと言ってもいいほど濃厚な関係性でした。

一方、販売代理店がメーカーの商品に魅力を感じて取り扱いを始めた場合、もっとフラットな関係性であることが多いかもしれません。

販売代理店の社長

メーカーと販売代理店との歴史を押さえつつ、現在の販売代理店の社長がどういった人物かを把握することも有効です。

代理店として取引開始した頃から同じ人物が社長になっているのか、子どもが引き継いでいるのか、まったく違う人なのか。

代理店の社長が誰なのかでも、M&Aの影響度合いや代理店への対応の仕方が変わってきます。

メーカーと代理店との関係性が強固であればあるほど、M&A時の対応を間違えると感情的なしこりを残すことにつながります。

中小M&Aによる販売代理店への影響:方針の違い

販売代理店にとって、メーカーの商品が事業の主力になっていることがあります。良い意味では、この数十年この商品を中心に一途に邁進しています。悪い意味では、この商品に依存しているとも言えます。

特にこのような場合、M&A後の買い手企業の方針が販売代理店へ大きな影響を及ぼします。

取引条件

M&A直後は販売代理店との取引条件を見直すということは避けるかもしれません。ただ、買い手企業にとっては、できるだけ取引先の取引条件は揃えていきたいもの。いずれは取引条件への変更を打診していくことは自然な流れです。

販売代理店側からすると、取引条件の変更は死活問題です。仕入れ価格、発注ロット、支払いサイトなど、少しの変更が経営に大きな打撃を与えることにもつながります。

販売代理店が零細企業で経営基盤が弱い場合、破綻に追い込まれるケースもあります。

暗黙の商習慣

メーカーと販売代理店との間で「暗黙の商習慣」が存在することがあります。

メーカーの従業員が独立して販売代理店になった場合など関係性が濃い場合、苦しいときは条件を緩くしてもらうこともあり得ます。資金繰りが厳しいときに支払い回数を分ける、発注ロットを少なくしてもらうなど。

ビジネスとしては正しい姿ではないかもしれませんが、実際にはそうやって融通し合うことでお互いを助け合ってきたという中小企業は多いと思います。

中小M&Aによる販売代理店への影響:重要度

販売代理店の重要度も気にしたい部分です。

売り手にとっての「重要な代理店」≠買い手にとっての「重要な代理店」

M&Aの売り手にとって重要と捉えている販売代理店は、必ずしも買い手にとっての重要な販売代理店にならないケースもあります。

買い手側が規模の大きい会社である場合、販売代理店の取引量からすると重要度が下がることもあります。

買い手側が何を目的にM&Aをするかによっても変わります。設備や技術の取得を目的としている場合、販売代理店への意識は薄くなるかもしれません。

重要度が変わると相手へ伝わる

面白いもので、譲り受けた側が販売会社への重要度を低く捉えた場合、そのことは相手に伝わっていきます。

私がいた販売代理店では、メーカーのM&A後、こちらへの重要度が下がったという印象を受けました。それは、日々のやり取りからじわっと伝わってきます。

そうなると、こちら(販売代理店側)はメーカーへの依存度をどう下げていくかという方向を考えるようになります。

中小M&Aによる販売代理店への影響:新社長の就任期間

メーカーがM&Aを行った際に、譲渡した会社の新社長がどのくらいの期間在籍するかも取引先には大事な要素です。

1年で交代!?

新社長の当面の役割はM&Aの引き継ぎをしっかり進めていくことになります。引き継ぎが終われば、違う目的が生まれ、社長が交代するケースもあります。早ければ1年足らずで交代になる場合もあります。

メーカーの社長が短期間で交代する場合、方針も変わり、販売代理店が迷惑することもあります。

今までの関係性が強かった販売代理店側からすると、

すぐにメーカーの社長が変わるのであれば、次の社長も短期間だろうし、込み入った相談はできない。どう信頼していけばいいのか。

と感じるものです。

依存するリスク

メーカーの社長が短期間で交代したり、方針が変わったりすると、販売代理店は取引の依存度が強いことへ危機感を感じるようになります。

主力商品の生産先を他社へ移管できる方法を探り始めるかもしれません。

知り合いの販売代理店でも同様のケースがあり、商品の生産先を他社へ切り替えることで、メーカーへの依存度を下げる方向に舵を切りました。

中小M&Aによる販売代理店への影響を最小限にするために

できればM&Aによる取引先への影響は抑えたいもの。

販売代理店側としてメーカーのM&Aを見てきた視点から、次のようなことに取り組むといいのではないかと感じます。

暗黙知の引き継ぎ

中小企業では明文化されていない「暗黙知」が存在することが多いです。技術やノウハウが属人化されていたり、販売代理店など取引先との商習慣にも及んだりすることも。

M&Aではこの暗黙知の引き継ぎに意識を向けることが大事になります。

譲り渡す側としては、できるだけ明文化したいと思っても、人の頭の中にあるものを漏らさず明文化して引き継ぐことは困難です。譲り受ける側としては、そこに問題意識を持ちながら、あらゆる角度から担当者へ質問をし、できるだけ暗黙知を表面化させることが求められます。

販売代理店への影響度合いを精査

M&Aによる販売代理店への影響度合いがどの程度あるかを事前に精査しておきたいです。

販売代理店の規模によっては経営破綻にまで追いやることにもつながります。重要度を見誤ることで大事な代理店が離れていく可能性もあります。

代理店への影響がどの程度出るかは、売り手と買い手の交渉段階から丁寧に確認していきたい部分です。

早い段階からの販売代理店とのコミュニケーション

M&Aが成立したら、できるだけ早く販売代理店とのコミュニケーションは取り始めたいです。1回の顔合わせのみでは不十分ですので、何度もお互いを知る機会を持つことをおすすめします。

新社長は腰を据える

メーカーの新社長には腰を据えて経営してもらいたいです。親会社からの出向先という形ではなく、販売代理店を含め長期的にお互い発展していこうという意気込みを持てることが理想です。

メーカーがそういった姿勢でいると、販売代理店としては、

力を入れてこの商品を販売していこう!

と思うのではないでしょうか。

まとめ

販売代理店を抱えるメーカーのM&Aでは、販売代理店との関係性をどのように維持していくかも大きな課題になってきます。

後回しになりがちな部分でもあると思うので、こういったことも意識してM&Aを進めていくことをおすすめします。

▼参考
後継者のいない中小企業はM&Aプラットフォームを活用することも選択肢のひとつ

M&Aのご相談

35歳のときに40年以上続く会社を後継者として 事業承継を行い、6年間代表として経営に携わりました。代表を退任後は、自身の経験をもとに東京都を中心に中小企業の事業承継を支援しています。中小企業診断士/M&A支援機関登録/やまなし産業支援機構派遣登録専門家