中小企業の一大イベント「事業承継」の方向性をどう決める?|押さえておきたいこと

こんにちは、3Cサポートの平山です。

日本の企業数は2021年6月現在で約367万社あり(令和3年経済センサス速報集計)、そのうち99%は中小企業といわれています。多くの中小企業にとって大きな課題になっているのが事業承継です。中小企業の社長(オーナー)にとって事業承継は大きなイベントです。どういう方向性があるか解説します。

*本記事内では「社長=オーナー」とします。

目次

中小企業 事業承継の4つのパターン

事業承継というと社長の子どもなど親族へ継がせるというイメージも大きいですが、事業承継には大きく分けて4つのパターンがあります。

  1. 親族への事業承継
    社長の子どもなど親族へ承継する
  2. 従業員への事業承継
    会社の従業員や役員へ承継する
  3. 「所有と経営の分離」
    社長は株を持ち続け、経営を社内外の人材に任せる
  4. M&A 
    事業を第三者へ売却する

どの事業承継のパターンが多いと思いますか? 

帝国データバンクの調査では面白い結果が出ています。1の親族への事業承継が多く割合としては34.0%ですが、2の従業員への承継も33.9%とほとんど変わらない水準になっています。

出典:「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」帝国データバンク

親族内で後継者がいない場合、従業員へ引き継ぐという流れが大きいようです。そして、社内に後継者候補が見当たらない場合、第三者への売却(M&A)という選択肢を検討する社長が多いようです。

中小企業が事業承継のパターンで押さえておきたいこと

事業承継のパターンで押さえておきたいことを簡単に解説します。

1. 親族への事業承継

親族内に後継者候補がいれば、社長の気持ち的にはこちらのパターンを選びたいのではないでしょうか。苦労して自ら育ててきたこの大切な事業、これを信頼できる近い人へ譲りたいという気持ちはわかります。自分の子どもが小さいときから、いつかは会社を任せたいと思っていたかもしれません。

また、多くの中小企業では事業で使用している資産が社長の個人資産と重なっていることがあります。例えば、会社の工場は会社名義だが土地は社長個人名義ということもあります。こういった場合、親族への承継の方がしやすいのだろうと思います。

<押さえておきたいこと>

納税資金

親族への事業承継で課題となりやすい点は、株式を承継する際に発生する税金に関してです。贈与税・相続税がかかり、後継者の納税資金をどう賄うかという問題が発生します。現金で引き継げるのであれば、その中から納税資金を調達できます。しかし、株式では現金化するわけにもいかず、株式の評価額によっては大きな納税資金が必要となります。

要件はありますが、この負担を緩和する事業承継税制というものが整備されています。

2. 従業員への事業承継

親族内で後継者候補がいない場合、事業のことをよくわかっている自社の従業員(役員含む)の中から後継者候補を選ぶことも多いです。

<押さえておきたいこと>

株式を買い取る資金をどう調達するか

後継者候補に貯金など十分な個人資産がなく、株式を買い取る余裕がないケースが多いです。この場合、金融機関から融資を受けて対応するということが考えられます。

個人保証や担保を引き継げるか

金融機関からの借入金で社長が個人保証や担保がある場合、これを後継者が引き継げるかどうかが問題になる場合があります。自分の思いで事業を興した創業者と違い、会社内で働いてきた従業員が会社の債務保証まで背負えるかどうか。後継者候補は背負う決心ができたとしても、家族が反対するケースもあります。

後継者候補の覚悟

私見になりますが、創業者と後継者の決定的な違いは、考え方や覚悟にあると思います。創業者は事業を育てる過程で様々な困難を乗り越えて今を築きました。後継者候補はずっと会社内で働いてきたので、立派なリーダーではあったとしても社長としての覚悟が十分でないことが多いです。

中小企業では、どういう場にでも社長が出向き、ときには修羅場を経験することもあります。借入金の個人保証も背負う必要も出てきます。その覚悟をどう持たせるかは大きな課題になってきます。

3. 「所有と経営の分離」

「所有と経営の分離」とは、株式の所有者と経営者を分けることをいいます。社長が引き続き株式を所有し続け、経営を他者に任せます。2の従業員への事業承継でこのパターンになるケースも多いようです。

<押さえておきたいこと>

リスクは社長や親族に残る

経営を他者に委ね株式を自ら保有し続けるということは、事業に何か起きたときの最終的リスクは株式を所有している社長が背負うことになります。社長が他界し株式が親族に相続された場合、事業に関わっていないにも関わらず相続した親族がリスクも同様に引き継ぐことになります。

後継者のモチベーション低下

後継者が引き継いだ当初はモチベーションも高くスムーズに移行できるかもしれません。しかし、経営を続けていくうちに業績が上がった場合、会社の価値も上がり、株式の評価額も上がります。その株式は経営者本人が所有しているわけではないため、長期的にはモチベーションが下がることが指摘されています。

逆に業績が下がって経営不振に陥った場合、あらゆる責任は経営者本人が背負うことになり、責任感から役員報酬も下げざるを得ず、個人保証による借入金も増すという悪循環にはまってしまうこともあります。そのとき、「何のために頑張っているのか」という思いになることも考えられます。

この「所有と経営の分離」というパターンは「日本の中小企業ではあまり機能しない」と専門家の間では言われ始めています。

私はこの「所有と経営の分離」の後継者として経営に携わった経験があります。すべての決定権を委ねられ任せてもらえた環境でした。しかし、振り返って思うと、先代社長(オーナー)への「忖度」は少なからずありました。

「思い通り好きなように運営してください」と言ってもらっていましたが、本当に自分が思った通りにできたことはそこまで多くはなかったように感じています。そして、自分自身のモチベーションの維持が大きな課題でした。このことは別の機会にまとめていきたいと思います。

4. M&A

前述の帝国データバンクのデータによると、後継者不在の割合は全体の6割近くに上ります。後継者候補が身近にいない場合、事業を第三者へ売却するという選択肢を取る会社も増えています。近年ではM&Aのマッチング支援や、インターネット上でのマッチングプラットフォームなどもあり、M&Aがしやすくなっています。

<押さえておきたいこと>

M&Aの「成功」

買い手が見つかれば会社を売却できますが、売り手である社長と買い手企業双方にとって「成功」と呼べる状態にしていく必要があります。

何をもって「成功」とするかはお互いの価値観によります。売り手としては、雇用を守ることやお客様にご迷惑がかからないことかもしれません。買い手としては、M&Aで既存事業とどういったシナジー効果が得られるかを第一優先にするかもしれません。その価値観のすり合わせと、M&A後の引き継ぎをどのように行っていくかが「成功」を左右することになります。

社長個人に帰属する事業の強みをどう引き継ぐか

中小企業、とくに小規模の企業では、事業の強みとなる部分が社長個人に帰属するケースがあります。社長の発想力、営業力、人望などでお客様がついていることも多いです。その場合、M&Aではその強みを引き継ぐことは容易ではなく、どのように引き継いでいくかが大きな課題になることがあります。

美容室などはわかりやすい例です。お店のオーナー個人にお客様がついており、第三者がお店を買収したあと、多くのお客様はお店から離れます。

まとめ

事業承継にはこの4つの選択肢があります。日本の中小企業では機能しづらいと言われている「所有と経営の分離」を除けば、親族内、従業員、M&Aが選択肢になります。それぞれによって押さえたいポイントも違います。事業承継に要する期間も変わってきます。

そこで、早い段階から事業承継計画を立てることをおすすめしています。5年、10年後を考えることで、今何に取り組み始めないといけないかがわかるようになります。

頭で考えていることを計画書という形で整理してみてはいかがでしょうか?

▼参考
事業承継の計画を作る上で考えておきたいこと|事業承継の計画作成3つのステップ

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35歳のときに40年以上続く会社を後継者として 事業承継を行い、6年間代表として経営に携わりました。代表を退任後は、自身の経験をもとに中小企業の事業承継を支援しています。中小企業診断士、ビジネスコーチ。